『都市と循環2024』振り返り〜3日間で見えてきたこと〜

2024年11月28、29、30日、京都で3日間に及んだ第一回「都市と循環」 は60名に及ぶ登壇者、30近くのセッションが開催され、現地にお越しいただいた500名近くの参加者と共に濃密な時間を作り出すことができた。ただ、いろんなセッションやプログラムが同時並行で進み、情報量も膨大、誰しも俯瞰しきれなかった。今、主催者である私達はすべてのアーカイブ動画を見返す中で、おぼろげながら見えてきたものがある。まとめという言葉は適切ではないかもしれないが少なくとも我々自身の頭の整理としておきたいし、こうした整理が参加してくださった方々にとっても各々の頭の整理や今後の実践のきっかけ・手がかりになれば思う次第である。

本年は、建築、死、食、農、京都、流域、工芸、災害、公共といったテーマからなるトークセッションに加え、台湾やオランダの実践事例や数多くのショートトーク、オードリー・タン氏とのオンライン対話などがあり、有益なインプットが多く得られ、また別々で行われた議論が、どこかで結びつきメッシュ(網目)のようになっていることを強く感じた。

本年の議論を振り返り最初に整理しておきたいのは、都市とは循環できるのか? という根本的な問いに対する回答だ。この2語はそもそも相反しているが、どう重ね合わせることができるのか? 本来的な循環とは自然世界における有機的循環/バイオロジカル・サイクルである。かつては住居も道具(工芸)も食も、山林や農と有機循環的に結びついていた。だが、自然を人工的にコントロールしようとする近代から発生した都市では有機物との距離が離れ、無機物が多くを占めるようになった。効率的に集積しようとすればするほど必然的に無機物的な方向に向かっていくので、都市で目指される循環は第一に無機的循環/technical cycleである。居住空間も家具も道具も販売して終わりでなく、修理・修繕・メンテナンス、再活用、共同利用など、できる限りの無機的循環が目指されなければならない。同時に、無機物的である都市においても木はあるし土はある。自然を取り入れ、無機物と有機物のグラデーションを獲得しようという工夫は続いていく。

都市近郊部の住宅地からは、徐々に自然世界とのメッシュ(交わり)が始まる。小さな共同体が次々と組成され、自然素材を使いつつセルフビルド型テクノロジーを活用した建築物なども生まれていくだろう。都市住民が農作業をしにやってきては自ら食料を作り、森、林、田畑を使った自然共生型のビジネスが展開される。農作業は部分的にAIロボットがアシストしてくれるようになるかもしれない。より都市から遠い場所では、オフグリッド技術の進化も後押しとなって、コミュニティーとしても成立しうる強靭さをも擁することができるようになる。

循環模式図

「流域論的視点」をもって暮らしの生態系が再編する必要性が着目されている。山上に溜まった雲から雨が降り、上流があり、集落があり、農業が営まれ、下流に街があり、海があり、また海の水が蒸発して山へ戻るという、かつては行政区でなく流域がベースとなった生態系によって循環が成立していた。自然災害によって世界が大変なことになっている中、流域思考は重要であり、山と街がつながった生態系を取り戻すきっかけにもなる。もっとも、そこに金や仕事が動き持続化できるようになることが欠かせない。現状の資本主義の可能性を拡げた枠組みの中で実装される形を見つけなければいけない。

また小さな自治組織が街でも郊外でも多くつくられることが重要である。そこでは「結」のような伝統的な共同体手法が参考とされつつ、同時にデジタルツールによる多様な人々の参加のあり方も模索されていく。加えて金融的な相互扶助の仕組みも求められる。今後の共同体デザインにおいては、「人」以外の存在(植物、動物、菌、虫などの生命体)や、「未来世代」も座席に加えた民主主義の発想(メッシュワーク的視点)を意識されていくべきであろう。

「死」のあり方についてもさまざまな視点から考えを巡らす必要がある。われわれ人間を含む生き物の死の「QUALITY OF DEATH」を意識し、その有機的循環を考えていくこと。たとえば人間の死が近代の家墓の在り方を唯一選択肢としないことで、死が自然循環の一部となり、地球の物語、自然と一体化する死も選べるようになる。
無機物である「モノ」の死の過程についても思いをはせなければならない。年老いた建築は違う使われ方をしたり、もしくは「マテリアルパスポート」のような技術を活用し建築としての生をまっとうした後もまだマテリアルとしての生き方を経てゆるやかに死から次の生へと移行する。衣服なども、経年が価値となり、再生されながらその寿命をまっとうする。生物もモノも次の命として生まれ変わりつなげられていくべきである。

循環には円というイメージがあるが、実は重なり合う網目(メッシュ)のごとき立体的な視点を持つことが必要ではないか。サーキュラーエコノミーの概念図として有名なものは、エレン・マッカーサー財団が作成したバタフライダイアグラムであるが、本当は球体的な循環の図なのかもしれない。

2000年代初頭、都市のあり方が新築主義からストック活用への変わり目で、R(re-の頭文字)から発想されるリノベーションやリユースという言葉に手がかりを求めた。リノベーションという言葉の認知が広まっていく過程でも、表面的な浅い意味で消費されていくことに強い懸念があった。広がっていくことは社会的なインパクトとなるので重要であるが、消費されないように注意もしなくてはならない。大事なことは本質からブレることなく、社会を変えていく意志を継続させていくことである。「都市と循環」というフェスティバルを毎年続けながら、ここで起こること話されることを咀嚼し、あるべき成長の形を探っていきたい。

なお、今回の「都市と循環2024」のすべてのトークセッションとショートトークは、動画としてアーカイブしてあり、メンバーシップに入られた方は「都市と循環2023」のセッション動画とあわせて、いつでも自由に視聴することができます。ぜひご検討ください。
【メンバーシップの案内はこちら】

*メンバーシップでは以下の動画がすべてご覧になれます。

DAY1 11/28(木)
■トークセッション「建築と循環」〜都市は植物化できるか?
能作文徳(建築家)/宮田生美(株式会社ゴバイミドリ 代表取締役)/山﨑篤史(竹中工務店 大阪本店設計部)/馬場正尊(東京R不動産/株式会社Open A代表)

■トークセッション「死と循環」〜死の概念のアップデートと新しいコミュニティ像
松本紹圭(僧侶)/藤岡聡子(ほっちのロッヂ共同代表)/小池友紀(atFOREST 株式会社 代表取締役/CEO)

■トークセッション「農と循環」〜農の民主化・山間地ダーチャ化計画
つるちゃん(ノウカノタネ)/コッティ(ノウカノタネ)/小泉寛明(EATLOCALKOBE 代表)

■「循環の現状from台湾」〜台湾における循環型社会の現状
呉 庭安(春池ガラス 取締役/CTO)/シー・ペイ イン(Collaborative O. Planning Consultancy 副代表)/ジャスティン・ユー(Plan b Inc.創業者・シニアパートナー / Alife Holding Co., Ltd.創業者兼CEO)/伊東 勝(株式会社 SHIBAURA HOUSE 代表取締役)

■ショートトーク
大島さちえ(株式会社りんねしゃ 取締役副社長)/西村周治(西村組/合同会社廃屋)/藤井健之(松ノ前停留所株式会社代表)/蒔田智則(デンマーク在住 環境設備エンジニア)

■オンラインセッション「オランダとサーキュラー」〜マテリアルパスポート/縮小こそが成長
トーマス・ラウ(RAU Architects)/アルネ・ヘンドリックス(アーティスト)/小泉寛明(神戸R不動産/EAT LOCAL KOBE)

■トークセッション「京都と循環」〜活発化する京都のサーキュラーエコノミー
榊󠄀田隆之(コミュニティバンク京信 理事長)/ 岩崎仁志(株式会社 ヒューマンフォーラム 取締役)/ 梅田温子(株式会社 斗々屋 代表取締役社長)/安居昭博(『サーキュラーエコノミー実践』著者)

DAY2 11/29(金)
■トークセッション「流域と循環」〜流域思考から考える
ゴン・ジョウジュン(キュレーター、台南芸術大学教授)/太刀川英輔(NOSIGNER 代表)/足立龍男(株式会社フォレスト・ドア 代表取締役)/山崎正夫(SHARE WOODS)

■トークセッション「工芸と循環」〜素材、森、工芸
堤卓也(株式会社 堤淺吉漆店 専務、一般社団法人パースペクティブ 共同代表)/小森優美(ファッションデザイナー/株式会社森を織る代表取締役)/小林新也 (合同会社シーラカンス食堂/MUJUN/合同会社里山インストール)/安田洋平(reallocal編集統括/株式会社アンテナ)

■ショートトーク
岩崎達也(株式会社マガザン代表取締役)/相良育弥(株式会社くさかんむり代表取締役)/Veig(片野晃輔・西尾耀輔)/楠本貞愛(「きたやま南山」会長/「さとのやま保育園」代表)/大高健志(「MOTIONGALLERY」代表)/Toshi(NEORT 代表、クリプトヴィレッジ 共同代表、paramita Co-founder)/扇沢友樹(KAGANHOTEL)/木村吉成(木村松本建築設計事務所)/三谷武(MITTAN代表)

■トークセッション「災害と循環」〜災間という時間のなか都市と村落を持続するには
高橋博之(株式会社雨風太陽 代表取締役)/小野田泰明(東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻教授/同 災害科学国際研究所教授)/三上奈緒(旅する料理人)/小津誠一(金沢R不動産/株式会社ENN代表)

■トークセッション「公共と循環」〜これからの公共のかたち
リーチン・クォ(Co-Create Planning Consultancy創設者)/大木貴之(LOCALSTANDARD株式会社/一般社団法人ワインツーリズム)/中川健太(岡崎市まちづくり推進課QURUWA戦略係 係長)/飯石 藍(公共R不動産 メディア事業部マネージャー/株式会社nest 取締役)


DAY3 11/30(土)
■ ダイジェストセッション「3日間を振り返る」
原田マハ(作家)/馬場正尊(東京R不動産/株式会社OpenA代表)/小池友紀(atFOREST 株式会社 代表取締役/CEO)/小泉寛明(神戸R不動産/EATLOCALKOBE)/伊東 勝(株式会社 SHIBAURA HOUSE 代表取締役)/安居昭博(『サーキュラーエコノミー実践』著者)/山﨑正夫(SHAREWOODS)/安田洋平(reallocal 編集統括/株式会社アンテナ)/小津誠一(金沢R不動産/株式会社ENN代表)/飯石 藍(公共R不動産メディア事業部マネージャー/株式会社nest取締役)

■キーノートスピーチ「オードリー・タン デジタルと循環」
オードリー・タン(元台湾デジタル担当大臣)